2010年4月17日土曜日

フォリー・ベルジェールのバー 解説 2/3



    昨日に引き続き私の知人Charlie氏による「フォリー・ベルジェールのバー」の解説です。


    昨日の解説をまだ読んでいらっしゃらない方は、こちらを↓先にご覧下さい。

フォリー・ベルジェールのバー 解説 1/3

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コラージュ的構成

この絵は、長い時間見ていても飽きることのない絵です。この絵があるコートールド・インスティチュート美術館の二階の一室には、絵の正面に木で出来た長椅子が用意されています。以前はその椅子の上に解説書も置かれていましたが、それはいつの間にか撤去されてしまいました。絵は部屋の中央、窓の反対側の壁の高い位置に掲げられて、椅子に座ってゆっくり眺められるようになっています。

バーメイドから眼を転ずると、近景であるバーのカウンターの上には、向かって左からスコッチ・ウィスキーのボトル(ラベルにマネの署名と制作年が描かれている)、ワインやシャンパンのボトル、また、それに挟まれてバス・ペール・エールの特徴的な赤いトライアングルのラベルも見えます。また、バーメイドの右手には薔薇が挿されたグラス、果物が盛られたガラスの台が描かれ、その右手にはアルコール類のボトルが絵の縁まで並んでいます。

遠景は全面鏡となっており、カウンターに置かれたボトルの一部が映り込んでいますが、舞台に見入っている観客や、恐らくは会話を楽しんでいるであろう人々が、荒いタッチで描かれています。この絵の舞台は、カフェ・コンセールと呼ばれる、出し物を見ながらお酒を楽しめるお店だと申し上げましたが、絵の左上には軽業を演じているであろう演技者の足だけがブランコとともに、申し訳程度に描写されています。また、遠景右側の大半には、このバーメイドが男性客と話している様子が映り込む形で表現されています。

カウンター上に描き込まれた様々な静物は、それだけを切り出しても充分に絵として成立するほど丁寧に描かれています。96センチ×130センチの大きさのキャンバスに描かれているこの絵を眺める人は、これらの静物ひとつひとつをあたかも一つの絵のように、視線を移動させていくことになります。特に薔薇とグラスの表現は素晴らしく、まるで、この絵のもう一人の主人公のようです。この部分だけを切り出したマグネットがこの美術館で売られています。勢いのあるタッチで描かれた屈託のなく咲き誇る薔薇とグラスの冴えた輝きは、物憂げなバーメイド表情と好対照をなしています。この絵を描いているころから翌年に亡くなるまでの間に、マネは療養先の庭に咲く花や、友人から送られた花や果物を描いた小品のシリーズを残しています。病に伏せたマネにとって、このような静物を描くことには特別の思いがあったのでしょう。マネのガラス器に挿された花に対する愛情が、そこだけスポットライトに照らされて浮かび上がってくるように思われます。

また、良く見ると、その薔薇を挿したグラスとそのとなりの果物を乗せた食台は厳密には同一の視点から描かれたものではないように見えます。

遠景に目を転ずると、鏡の汚れもあり、観客たちは荒いタッチで描かれ、これもまた別の絵のようです。さらには遠景右側の男性客と話すバーメイドの後ろ姿は、正面にあるバーメイドの正確な後ろ姿ですらありません。これはこの絵画の一つの謎と言われてきました。前述した他の習作やこの絵のエックス線写真像をみると、恐らく、この後姿の像の方が当初描かれたモチーフであり、その後、前を向いているバーメイドは絵を見る人に対して正対させましたが、鏡に映り込む姿の形状は概ねそのままとし、絵の右端方向に移動させたものと推測されます。

このような各所に散らばる多くのモチーフやそれぞれのタッチの違いから、絵全体がコラージュ的な構成となっており、絵全体に複雑性・複層性を与えるとともに、物語を紡ぎだしています。このような味わいが見ている者にじわじわと伝わってくることも、私がこの絵からなかなか立ち去ることが出来ない理由となっています。

to be continued ....

フォリー・ベルジェールのバー 解説 3/3


 

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