2010年4月18日日曜日

フォリー・ベルジェールのバー 解説 3/3



   二夜連続でCharlie氏の「フォリー・ベルジェールのバー」の解説をご紹介致しましたが、こちらで最後となります。


   まだご覧になっていない方は、
まずはこちらを↓ご覧下さい。

フォリー・ベルジェールのバー 解説 1/3
フォリー・ベルジェールのバー 解説 2/3

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コートールド・インスティチュート美術館

フォリー・ベルジェールのバー」が飾られているコートールド・インスティチュート美術館は、英国国立美術館正門から左手に出て、ストランド通りを歩きほど近い立地にあります。国立美術館から近いということ以外にも、訪問すべきだという素敵な理由が幾つかあります。一つは、大きくないということです。国立美術館は所蔵する絵画の量が多く、勿論それは素晴らしいことですが、あまりの情報量の多さに、見ているうちに疲労感が増してしまいます。これに対して、程よい大きさで良質の絵画を有する美術館があります。それらは総じて裕福な個人のコレクターによるもので、鑑識眼に優れ、秀でたセンスによって集められた絵には一定の統一感があり、程よい数の絵は見る者を疲れさせません。さらには時間をかけて、何度も同じ絵を訪れ自分の印象を確かめることができます。米国ニューヨークでは、メトロポリタン美術館に近いフリック美術館にも同様の趣が感じられます。

コートールド・インスティチュート美術館の創始者であるサミュエル・コートールドは、フランスからイギリスへ移住してきた豊かな家系に生まれ、絹織物の会社を興し大きな成功を収めました。印象派と後期印象派の良作を中心に質の高いコレクションを有しており、サミュエル・コートールドの高い鑑識眼を証明するには充分な内容となっています。ここまでお話ししてきた「フォリー・ベルジェールのバー」(1882)のほかにもマネの代表作の一つである「草上の昼食」(1862)(但し、ルーブルのものとは異なり若干小ぶりでモデルも異なる)、セザンヌの「トランプをする男たち」(1890年代に同じモチーフで5点描かれたうちの一点)、「化粧をする若い女」(1889)など多くのスーラの作品、ゴッホ、ゴーギャンと、手狭なロンドン大学周辺から移設されてきたとはいえ、いまだ広いとは言えない展示会場に余すところなく名作が展示されています。サミュエル・コートールド自身、熱心な絵画の研究者でしたが、1931年にこれらの絵はロンドン大学に付属する財団の管理するところとなり、1958年から美術館として公開されてきました。

私がこの美術館を愛するもう一つの理由は、飾られた絵と見る自分との距離が近いことです。オルセーに移設される前の印象派美術館を訪れたのは私がまだ学生の頃でしたが、何よりも驚いたのは人類が誇るべき掛けがえのない名画が、個人の邸宅を思わせるほど良い大きさの部屋の中に手に届く距離で無防備に置かれていることです。見る者への強い信頼感や期待とともに、絵とは本来、このようにプライベートな距離と空間のもとで鑑賞されるべきものであるということが解りました。ここ、コートールド・インスティチュート美術館も、時間を選ばなくとも、そう混んでいるわけではありません。望むらくは、もう少し低い位置にこの絵を掲げて欲しいと思うことはありますが、それでも誰に邪魔されることもなく、マネが最晩年の思いを託した虚空を眺めるバーメイドとの二人だけの贅沢な時間を過ごすことができます。

前回、私が訪れたのは冬のことでした。この美術館がある灰色の石造りのサマーセット・ハウスの中庭には特設のスケート場が設けられており、美術館に向かう私の横を、毛糸の帽子をかぶった母と娘が白い息を吐きながら連れ立って歩いていきました。


(2010年4月11日)

= 参考文献 =
Manet Face to Face, Coutrauld Institute of Art
印象派美術館 小学館
近代絵画史 高階秀爾 中公新書
フランス絵画史 高階秀爾 講談社学術文庫
美術館へ行こう 長谷川智恵子 求龍堂
世界美術館巡りの旅 長谷川智恵子 求龍堂
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      いかがでしたでしょうか?こうしてCharlie氏から頂いた解説を読んで、改めてこの絵を眺めてみると、「菫の花束をつけたベルト・モリゾ」を始めとするベルト・モリゾの肖像やメリー・ローランをモデルにした「秋」、または「プラム」などの様に、女性の一瞬の美しさや憂いをこの絵の中でも表現し、「シャクヤクと剪定ばさみ」などの花ものや、「レモン」と「4個のリンゴ」など、マネが得意とされた静物画もこの絵の中に取り入れられている事が伺えます。さらにマネは何とかサロンで高い評価を得ようとしていたのにも関わらず、なかなかマネの思う評価を与えなかったブルジョアジーの人々を「チュイルリー公園の音楽会」の遠景の様な描き方でこの絵の背景として描いるのではという気分にもなり、もうひとつ想像するならば、バーメイドの右手にある腕輪は「オランピア」のモデルの右手に付けられている腕輪にも見える気がします。
本当にこの「フォリー・ベルジェールのバー」は、たくさんの要素が含まれていて、まさにマネの最期の作品として、マネが全てをつぎ込んだ作品であったのかもしれないと思いを馳せていると、いつのまにか夜も更けてしまいそうです。

  最後に、お忙しいにもかかわらず、私のブログにお付き合い頂いたCharlie氏には感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

   この絵を眺めていて新たに発見した要素や、ご感想・ご意見などをお寄せ下さい。お待ち致しております。
Email to: elizabeth.shikibu@gmail.com


 

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