2011年8月6日土曜日

アンティーク オークションにて 2/2

  先日のアンティーク オークション(Chiswick Auction)での続きです。前回のブログを読んでいない方は、先ずはこちらをご覧下さい。
アンティーク オークションにて 1/2

  帰りの電車の中で、自分が好きな絵を5ポンドで入手できたかもしれなかったと思うと何とも歯がゆく、”たられば”ばかり考えてしまって、危うく駅を乗り越してしまいそうになりながらも、スーパーに立ち寄り、先ずは自宅に戻って考える事としました。
  まずはその絵がどのくらい自分の好みに合っているのか。ロンドンとエディンバラのナショナルギャラリーに、Pieter Saenredam (1597-1665)というオランダ人による教会内のインテリアの絵がいくつかあるのですが、私はそれが大好きで、1996-1997年にイギリスにいた時には時間が許す限りそれを眺めに行っていました。(下記参照)
The Interior of the Grote Kerk at Haarlem  
The Interior of St Bavo's Church, Haarlem (the 'Grote Kerk') 

  今回の絵がPieter Saenredamのものではない事くらいは分かっているのですが、とても絵の傾向が似ているのです。しかし欲しいからといって、入手して良いという訳ではない訳で、それらを考えつつ、果たしていくらで落札するのが現在の自分にふさわしいものか考えました。イギリスの美しい夏を楽しもうと、仕事探しすらスタートしていない状況で、残り少ない貯金を少しずつ切り崩している私としては、都心に出る交通費さえ惜しいのです。ちなみに現在の我が家はZone2内なのですが、都心のZone1まで出かけようとすると、片道1.90ポンドもかかり、貨幣価値をダンナ様に合わせる為に、1ポンドを200円で計算して生活している私には更に高額な料金となるのです。
  実際に計算すると、交通費が往復2.60ポンド(ちなみにChiswick AuctionのあるSouth Acton駅もZone2にありZone1を通らずに我が家の最寄の駅から行けるため、割引となります)、10ポンド以下で落札すると最低手数料の2ポンド、それに落札価格となります。とは言っても来週の競売では誰かが落札を希望するかもしれないし、そうなったら価格は上がる訳で・・・と、そんな事を考えながらも、あっという間に1週間が経ちました。
  その日は朝から夕方まで夕立を含む小雨の予報で、という事は万が一落札出来た時の事を考えれば、何とか脇に抱えられる大きさの2枚の絵を雨の中を持ち帰る事も考えなくてはいけない訳で、更にはカタログには19世紀の絵画と書かれており、という事は額縁に入っているのはガラス素材な訳で、それだけでもかなりの重量になるのです。と同時に落札するにしても自分の限度額をいくらにするのか、落札出来るのかそうでないのかという事も考えなくてはならず、重たい気分を抱えながらも、出かける支度をして私はChiswick Auctionに向かいました。
  前回来た時に思いましたが、ここもロンドンとは言っても、都心とは全く違った雰囲気で、ここで働いている人達はどう見てもイギリスのパスポートを持っている人達ばかりです。私が頻繁に行くアンティークマーケットで店を出しているディーラーも何人も見かけ、どうみても常連で成り立っている場所で、そんな所に片言のアジア人がうろちょろしていると目立ちます。受付の人の中には初めてやってきた私にも親切に説明してくれる人もいますが、初めての経験ではない微妙な視線を浴びながら、粗相をしない様に気をつけながら、今週の競売アイテムを一通り眺め、この一週間考え続けた絵のある薄暗い部屋まで辿り着きました。
  カタログには金メッキの額縁と書いてありますが、既にかなり痛んでいて、絵と額縁の間にある中敷きとでもいうのでしょうか、それの縁にある金のラインも額縁の中で剥がれ落ちています。絵自体には損傷は見られませんが、作者のサインもなく、19世紀の物である事も見た目からは確認出来ません。基準価格は20~30ポンドに下がっていました。
  その絵のロット番号は136でした。という事は早いながらも多少ゆっくりと競売を進めるTomが担当するものと思い少し安堵しつつ、10ポンドで落札すると合計14.60ポンドの費用をかけて入手する事が妥当なのか、頭の隅の方で考えながら、競売人が壇上に上がって来る事を待っていました。
  てっきりWilliamが先にやってくると思っていたら、Tomが先に壇上に上がりました。・・・という事はさらに早口のWilliamが100番代を担当する事に気づき、多少の不安を打ち消そうと先週と同じ様なタイミングで事が進む事を祈りました。
  地方のアンティークオークションであれば、品数も少ないのでしょう。もう少しのんびりした雰囲気で競売が進められ、先日のテレビ番組では、あるおもちゃの競売の時に、まだ首も据わらない赤ん坊が競売人のハンマーが下りる直前に「オギャ」と泣き声を上げ、競売人のユーモアで「The little baby bid at the last minutes!」と言って会場を沸かせていました。その位の余裕があると、競売会場も違った雰囲気になるのでしょうが、この日も900近いアイテムが並んでおり、会場に来ている人たちも自分の目当てのアイテムの順番が来る事を黙って待っています。
  Williamが壇上に上がりました。後はその時が来てから考えようと、136番が来る事を待ちました。Williamは相変わらずのとても早いテンポで競売を進めます。136番の順番がやって来ました。「30ポンド!」。・・・・。「20ポンド!」。・・・・・。「誰か10ポンドでどう?」。・・・・・・ここで手を上げる気持ちの準備はしていたのですが、誰も関心を示している様子がありません。「5ポンド!」とほぼ投げ売り状態でWilliamが叫んだので、条件反射的に手を上げました。
  そのオークション会場での最低落札価格である事は言うまでもなく、他に落札した物があるのであるならまだしも、その一点だけなので、前回とは違う受付の人には「合計で7ポンド??」とあまりの金額の小ささに呆れられ顔をされつつも、雨の中、重たい2枚の絵を抱えて、道の向こうからやってくる人には、私があまりにもヨタヨタ歩いていたせいか道を譲ってもらいながら、無事重たい絵を連れて帰りました。こちらがその2枚です。
  こういったアンティークを現存のまま残すか、修理補修をするかは双方にメリット、デメリットがあるのですが、左の額縁の中でずれている金の縁がとても気になる上に、額縁の裏に目張りの為に張ってある薄い紙がぼろぼろと落ちるので、情報収集の為にも絵を額から外してみました。
  絵の裏には手書きで"Choie of the Cathedral of Rheims"と書かれてありました。ネットで調べてみたらCharles Wild (1781-1835)の作である事が分かりましたが、これが原画なのか複製なのかどうかは私には分かりません。
  重たいガラスも洗剤で洗い、ずれていた金の縁も取り除き、再度額に戻してみると以前とは違った絵にも見えてくる程、きれいになりました。一枚当たり4.80ポンドの費用をかけて入手したものとしては満足しています。
  アンティークの面白さは、自分が地球上に存在する以前からそれらが存在していたかと思うだけで色々と思いを馳せる事ができ、時には誇りまみれになっている中から掘り出した物を磨いてその過去を探るという、宝探しの様な要素も魅力のひとつだと思います。
  いつかリタイアした時にでも、ディーラーになって自分の好きなアンティークを店に並べてみたいと思います。それまでに自分のコレクションを増やさなくてはなりませんが、それ以前に仕事を見つけて仕入れる為の資金を確保しなくてはいけないという事に気づき、現実の世界に引き戻された私なのでした。
 

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